その1 原子はどうやって誰もが認めるものになったか

前回は量子力学は日常的な経験とかけ離れていることを紹介しました。

今回からは具体的に原子の中にある電子の不思議さを紹介します。一度の話で結論だけを書こうかとも思ったのですが、結論を示すだけでは暗記勉強と変わらず、すっきり分かった気もしないことが多いものです。何より、現在の「常識」は昔の科学者がワクワクしながら取り組んだ謎解きの成果ですから、そのワクワクや格闘を再体験することも重要と思い直しました。

そこで、3回に分けて少し回り道もしながら原子の中の電子に迫ります。

その1: 原子はどうやって誰もが認めるものになったか

その2: 原子の中の電子の不思議

その3: 量子力学からみた電子軌道

まずその1では、そもそも原子=「世界が粒でできているというアイデア」はどうやって当たり前になったかについて触れます。

原子(アトム)の考えは古代ギリシャのデモクリトス(紀元前460-370ごろ)まで遡ります。原子は空虚な空間の中でくっついたり離れたりする「生まれることも消えることもない分解不能な存在」であるとされました。

原子とは別に原子を動かすエネルギー源である火(熱)があって生き物の活動や化学反応が起きていると考えていたようです。火と魂が同じというスピリチュアルな側面はありますが、現代の化学反応における原子の保存則や反応エネルギーの考えに通じるアイデアが主張されていたことになります。

しかしアリストテレス(紀元前384-322)の四大元素(火, 風, 水, 土)説の方が浸透し後世の錬金術等でも基本的な考えとなり、原子論は長い間にわたり重要視されることはありませんでした。はるか2000年以上の時を経てラボアジエ(1743-1794)やドルトン(1766-1844)によって化学実験に基づいた原子論が復活しました。

現在、化学の教科書を学ぶとこの段階で原子が広く受け入れられたかのような気になりますが、実際にはその100年後の20世紀の初頭まで原子は「疑わしいアイデア」として信じる人は少数派だったようです。

ではどのような考えが主流だったかと言うと、「世界はエネルギーが様々に姿を変えているものである」というエネルギー論でした。この当時、エンジンや化学反応熱をうまく説明できる熱力学というエネルギー理論が完成しており、この理論の影響が大きかったようです。

この流れを変えて原子が広く認められるようになった理由の一つが有名な物理学者アインシュタインによるブラウン運動の理論です。ブラウン運動とは1827年にブラウンによって発見された現象で、水中にある1マイクロメートル(10-6m, 1000分の1ミリ)程度の微粒子がランダムな運動をすると言うものです。

アインシュタインの理論はブラウン運動が水分子の不規則な衝突によって生じると言うものでした。つまり水は粒としての水分子が衝突し続けている世界であることを示したわけです。

ブラウン運動による微粒子の動き。時間に対して粒子が動く平均距離はアインシュタインによる理論の予言通りになった。また、この理論を元に実験からアボガドロ定数を求めることができる。

なお、1905年は物理学の世界では奇跡の年と言われています。当時26歳のアインシュタインがこの年に物理学を根本的に変えた3つの理論を発表したからです。一つ目は光電効果の理論、二つ目はブラウン運動の理論、三つ目は特殊相対性理論です。

上記のようにブラウン運動の理論は原子論を広め、光電効果の理論は量子力学の基礎となり、特殊相対性理論は時空のより適切な見方(タイムマシンや宇宙論に通じる考え)や、物質とエネルギーの関係(原子力に通じる考え)を与えました。いずれの理論も現代物理学の柱になっています。

また、アインシュタインのブラウン運動理論以前には原子論とエネルギー論が対立していたと書きましたが、相対性理論により原子はエネルギーと見ることもでき、結局はどちらも正しいことが示されました。

この前後に、トムソンによる電子の発見(1897)、ラザフォードによる原子核の発見(1911)などが続き原子の構造についての理解の足場ができました。どうやら世界は粒からできているらしいという認識が広く行き渡りました。

このようにして原子はようやく誰もが認める存在となりましたが、当時まで原子を信じる少数派だった化学者達により、原子価や多重結合、イオン、分子構造、周期表などの現代化学の基礎の多くがそれまでに確立しています。

見えない原子に対して実験事実から名探偵さながらにこれほど多くの理解が引き出されたことは驚くべきことです。後に量子力学が生まれて、それまでの化学的な考えの正しさが証明されました。

量子力学によって化学の原子論が物理とつながったのは今から100年ほど前のこと、現代の中学生・高校生にとってはひいお爺さん・お婆さんの生まれた頃の出来事です。

ニュートン力学に加えて電磁気学と熱力学が完成し、飛行機やガソリン車の量産が始まったり、ラジオが使われたり、空気中からアンモニアが作られて肥料に使われたりと工業化が急に進み、第一次世界大戦が起きた頃でもあります。

どんどん技術が進み、科学も何もかもが分かったような気になっていた時代でもありました。しかし、次回お話しするように、原子は当時知られていた物理法則では全く説明できないという事実に直面したのでした。

次回: 原子の中の電子 その2 原子の中の電子の不思議

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